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そもそも、「異物分析」って何?
「異物分析」って、そもそも何ですか?
製品・商品の製造販売をする上で、製品・商品の外部又は内部に「異物」が付着したり、混入したりするケースが稀にあります。得意先や消費者が発見した場合には、「クレーム」として営業担当が持ち帰り、場合によっては損害賠償になるということもあり得ます。事後処理の再発防止対策であれ、未然防止であれ、異物の発生・付着・混入を防ぐためにも、異物の発生箇所の特定や、発生原因・混入原因を突き止める必要があります。
この科学的な分析方法を、総じて「異物分析」と製造業界では言われていますね。カイゼン活動の一環としても、クレーム処理としても、とても重要な作業となります。
工学修士・技術コンサルタントで経験者である「あすも あらた」が、「異物分析」について徹底解説します!
「異物分析」の流れについて解説します!
【1】異物(検体)の確保:サンプリングが最も重要!
サンプリングの方法は、異物の形態(油状か固形状かなど)や大きさなどにもよります。固形であれば、「シャーレ」(中学の理科の実験で使ったガラスケース)を用い、液状でしたら、「保存ビン」を使うのが一般的です。新品に限定するなら、「チャック付きのビニル袋」もよくつかわれます。ピンセットや実験用の匙(スプーン)でサンプリングします。
サンプリングは分析の最初の段階ですので、最も重要な工程となります。よって、以下のようなNG例も存在します。
NG例
異物を「セロハンテープ」に貼り付けて持ってきましたよ!品管さん、分析してっ!
品質管理部以外の異物分析の素人さんがよくやりがちなミスとしては、「素手」でつかみ、「セロハンテープ」で「紙」にベッタリ貼り付けたりして持ってくるケースがあります。手の油脂の成分やセロハンテープの有機物成分も混在してしまい、異物分析しにくくなりますので、NGとなります。
なんとっ!すまぬっ!
人の手の脂やセロハンテープ「単体」のFT-IR分析も行って、混合物との「差分」(引き算)で、異物のデータのみを抽出する高等テクニックもありますよ!経験やカンなども必要になってきてしまいますし、分析に失敗することもあり得ます。よって、やむを得ない場合に限って「差分」で行ったりします。やっぱり、サンプリングは慎重にお願いしたいですよね!
事前の注意喚起が必要ですね。「異物分析の検体は、ピンセットで掴み、シャーレに入れる事」など、「検体確保マニュアル」を現場に貼るとよいでしょう。なお、異物は、クレーム先に返却する場合もありますし、たいていの場合、異物はごく小さいものです。プロである品質管理部の者も異物返却まで、検体の計画的な利用と管理を怠らないことが大事です。さらに検体は小さいことが多いことから、失くしやすい点も注意が必要ですね。
【2】形状確認・写真撮影:ありのままを観察し、キレイに撮影します!
異物の「ありのまま」の形状を「デジカメ」の「接写モード」で撮影します。また、検体の大きさに関わらず、表界面を観察するため、「CCDカメラ」(50倍~200倍)などで、表面観察結果としてデジタル撮影をします。word(ワード)などで作成する「報告書」にも使うデジタルデータとなりますので、キレイに撮影したいですね。
この時点で、大体の類推もできる場合があります。「ざらざらしてる」「ベトベトしてる」「光沢あり・なし」「昆虫の体の一部?」など、素直に思ったことをノートに所見として記載しておくと良いでしょう。感性や経験値も大切な要素です。
【3】大分類を類推:ただし、「決め打ち」はしません
異物のあった状況(場所・担当者・工程・時間帯)をイメージします。また、金属光沢の有無で金属かどうか判別します。結晶性があれば、無機物と判別し、また、油状であれば、有機物と判別します。曖昧な情報ですが、レポートの際に必要な1データとなります。
経験豊富なプロですと、この時点で、どこで発生した何であるかまでわかってしまう場合もありますが、誤診してしまう恐れもあります。この時点では自信があっても「断定はしない」点は大事です。
決め打ちせずに、「油混じりの金属かな?」「あれかも?これかも?」くらいに留めます。
【4】科学的測定・分析 : ありのままを捉えますが、分析力も大事です。
様々な「科学分析機器」が存在しています。それぞれからわかる「情報」は異なります。
電子顕微鏡(SEM)でわかること
形態を問わず、分析できます。結晶形状をしていれば、「無機物」です。電子線をあてて、黒く画像が飛んだら「有機物」です。有機物に電子線をあてると焦げて蒸発し、真空ケース内に蒸気が飛散して、フィラメントがダメになりやすくなりますので、そのまま電子線を当てない方が良いでしょう。
有機物を電子顕微鏡で見たいのなら、金蒸着又は金スパッタリングで観れるようになります。
昆虫の体の一部ということもあります。金蒸着で電子顕微鏡観察することで、毛や複眼などから虫の種類まで特定することもできるかもしれません。製造工程のどこに殺虫用の紫外線装置・高圧線装置を設置するかの検討に役立つかもしれません。
電子線の加速度(kV)を上下させると、見え方が多少変わるので、観察に役立つかもしれませんよ。とにかくSEM附属のデジタル写真で画像を残しておきましょう。あとあと結論が出たときの対策案や報告書の作成などにも、きっと役にたつことでしょう。
EPMAでわかること
「無機物」の分析に適し、有機物の分析には適しません。「元素」レベルでの組成分布、特定の元素の含有率(%)がわかります。これらデータと、既存の社内材料のリファレンスデータと比較して、一致するものを探すもよいでしょう。さらにPC用のサーチソフトを使うと絞りやすいです。
例えば、鉄に少量のクロムが検出されたら、「ステンレスのかけら?」と推定するようなイメージです。
EPMAでの組成分析 | 推定の一例 |
---|---|
主に鉄のみ | 製造工程中の「軟鋼」でできた機械・レーンなどが欠けて、製品に混入した? |
鉄にクロムやモリブデンなど少々 | 製造工程中の「ステンレス」でできた機械・レーンなどが欠けて、製品に混入した? |
主にアルミ | 「アルミ」製品の一部が欠けて、他のアルミ製品に混入した? |
主に炭素 | 有機物なので、FTIRでのさらなる分析をしないとまだ何もわからない。 |
え?ウソ?金が混在? | 金蒸着すると、当然ながら金が検出されます。誤解防止のため、報告書に備忘記載するとよいでしょう。 |
FT-IRでわかること
無機物の分析には適さず、「有機物」の分析に適します。「赤外線」をあて、分子間結合特有の振動数(cm-1・カイザー)のピークからチャートを作成し、既存の社内材料データと比較して、一致するものを探します。さらにPC用のサーチソフトを使うと絞りやすいです。
例えば、「あすも あらた」は、FT-IRにて以下のような物質を同定しましたね。
コーヒー缶やジュース缶の内面をコーティングしている「ポリエチレンテレフタラートで構成されるフィルム」の一部が剥がれ、その一部が商品内部の液体のなかに混入したものと推定 |
「昆虫」の混入であると推定 |
「機械油」が製造工程からたれてきて、製品の内部に付着したものと推定 |
「ビニルテープ」が付着したものであると推定 |
製造レーンの「プラスチック」の一部が欠けたものであると推定 |
得意先の商品(コーヒーやジュース、お酒)である「食材」そのものであると推定 |
クロマトグラフでわかること
「液体」と「気体」なら分析できます。「分離される時間」が物質ごとに違う性質(粘度など)を利用して、物質を特定します。
例えば、コーヒーやジュースなどの液体や液状の食材の一部が付着したのか? 機械油が付着したのか? などの分析ができます。
その他分析機器
異物分析で一般的なのは上記4点です。
中学校や高校の理科ではありませんが、「リトマス試験紙」、「PHメータ」、「中和滴定」などのアルカリ・酸度測定も物体や材料の推定のためにはたいへん有効でしょう。「糖度計」や「臭気判定士」による「臭気判定」という手法を用いるケースもあるかもしれません。
「硬い」・「もろい」・「ネバネバする」・「くさい」などの「人間の感性」も重要な分析ツールですよ。
さらに踏み込んだ分析をしたいのであれば、医療などで用いられる「CT-スキャン」も使うケースがあります。非破壊で内部を観察できるメリットがあります。さらには、異物分析としては超マイナーですが、「遺伝子解析」や「炭素年齢分析」などするケースもあるのかもしれませんね。「工業レベル」ではちょっとやりすぎかもしれません。
【5】解析 : あなたの腕の見せどころです!よっ!名探偵っ!
これまでの測定データから、ある程度「推定」をしてきましたが、異物が実際になんであるかを、ついに「特定」することになります!
サンプルデータから、既知のリファレンスデータに直接ヒットするなら、物質がなにかを「特定」でき、異物分析としては理想的な結果となります。「特定」が無理なら、「消去法」による「推定」をすることになりますが、推定も大事な結果として報告の1データとなります。
また、「測定不能」・「不明」もひとつの大切な成果です。リファレンスデータにないだけの未知の物質かもしれません。もしかしたら、社長賞クラスの偉大な発見だったりするかもしれませんね。このとき、なにか結果を言わなければいけないと思って、ムリに結果をねじまげないことです。改ざんやウソの証言は、カイゼンの実質的な成果にはなりませんし、もしかしたら、将来の大型クレームや背任罪や懲戒免職などにも関連してくるかもしれません。
「ここまではわかりましたが、ここから先はわかりませんでした」と答えるのが、異物分析の世界では、ある意味100点満点の正解となります。
よっ!工業界の名探偵っ!
【6】レポート作成 : フォーマットを準備。文章力も必要!
異物の写真、表界面写真、測定データ、解析結果、原因、場所・工程、特定した物質の名称と影響等を記載します。クレーム、単なる分析依頼で、それぞれ書式は大きく異なりますから、それぞれに合ったフォーマットを事前に用意しておくとよいでしょう。
報告書を記載する文章力も必要です。報告時に何をお話しすることになるのかを意識すると自然と手が動きますよ!
クレーマー相手に必要以上の事を記載すると、火に油を注ぐ結果になりかねません。物質が特定できなかったのなら、わかった部分だけデータとその旨記載します。
レポート作成は正直なのが最も大事で、ウソの記載や改ざん等は決してしてはいけません。上記5同様、嘘を塗り重ねて破滅しかねません。後々のカイゼンのためにも、正直が一番です。
【7】口頭報告 : 上司やお客様にクチで伝えてこその異物分析!
場合によっては、営業部員に同行して消費者や得意先へ、異物分析やカイゼンのプロとしての「口頭説明」も必要な場合があります。理工系出身の多い品質管理部門の者といえど、話術は鍛えておきましょう。
「人と話すのはどうも苦手」だべさ!、、とか、通用しない仕事内容だんべ?
これから「AI新時代」がきます!
「話術」などの人間力を鍛え上げてビジネス界で今後も生き残りましょう!
皆さんは、あくまで異物分析のプロ・品質管理部員ですから、ハッタリや嘘だけはNGです。事実のみを、ありのままに述べるに留めましょうね。気の利いた営業トークやハッタリは、営業マンのビジネス領域です。
「異物分析」について、他にも知りたい方は?
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