「税理士法人化」税理士法人を設立するメリット・デメリット・留意点・手続き~あすもメモ~
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まず、税理士法人の現状を知る
開業税理士のAです。
平成13年の税理士法改正から税理士法人の制度が認められて、徐々に税理士法人の数が増えてきていますよね?
現時点で最新の情報である日本税理士会連合会の資料(令和3年3月末日時点)によりますと、
全国に、税理士法人の数(=本店の数)は、4,356 法人あるそうです。
オーナー兼役員に相当する社員税理士の数は、11,461人であり、税理士法人にサラリーマンとして属する所属税理士の数は、5,460人とされておりますね。
税理士の全国総数が、79,404人ですので、全体の約2割の税理士が税理士法人に所属しているという計算になりますね。
やはり、メリットがたくさんあるので、税理士法人が増えてきているのでしょうね。
そうですね。
まずは、税理士法人を設立するメリットについて解説していきます!
税理士法人を設立する「メリット」
それでは早速ですが、税理士法人を設立するメリットについて教えてください。
以下、私感も交える部分も多々ありますが、税理士業界でよく聞くお話を、開業税理士事務所と対比させる形式で、表にまとめてみました。
なお、優劣を示すことを目的としているわけではなく、あくまで、事務所設立の際の検討材料としてご利用いただくことを目的として、善意で無料公開しております。この旨、ご理解いただいた上で、ご利用いただければ幸いです。
税理士法人を設立するメリット | 開業税理士事務所を設立するデメリット | |
巨大組織化 | 会社法上の合名会社に準ずるものとして法人格が与えられます。 複数の社員税理士を重要ポストの各部に配置することによって、 巨大組織化しやすく、管理・統制などの点でアドバンテージがあります。 今後は求人面でもやや有利といわれています。 | 昭和時代と異なり、近年では少人数の事務所が多い様子です。 所長のカリスマ性などワンマン税理士の個人による影響が大きく、巨大組織化には不向きかもしれません。 近年、求人面ではやや不利といわれていますが、現状、所属税理士の数では大きな差はない様子です。 |
エリア拡大 | 社員税理士を1名以上常駐させれば、支店を設置できます。 エリア拡大の点で決定的なアドバンテージがあります。 全国展開している税理士法人も珍しくなくなりました。 | 支店を設置できないので、今後はエリア拡大は難しいかもしれません。 必然的に、地域密着型向きと言えるでしょう。 業種特化・得意分野強調なら全国出張型も可能かもしれません。 |
事業承継 | 社員税理士を増やすことによって、突然の廃業を避けられる点で、決定的なアドバンテージがあります。顧客にとっても安心感があるかもしれません。 但し、死亡等によって社員税理士1名体制になってしまった場合、半年以内に社員税理士を補充する必要があります。 よって、3名以上を社員税理士としている税理士法人が多い様子です。 | 税理士1名で経営することから、後継者となる税理士が所内にいないような場合、突然の廃業となるリスクがあります。 相続人に税理士がいない場合、親族は事業を引き継げません。 よって、近年では、親族外の税理士による事業承継対策やM&A、顧客リスト売却なども目立ってきています。 |
退職金 | 社員税理士(オーナー役員)に対しても、退職金を出せる点で、法人の経費性・オーナー個人の退職所得課税の点で、決定的なアドバンテージがあります。死亡退職金なら、相続税の節税にも役立つかもしれませんね。 | 開業税理士は個人事業主なので、 自分自身に退職金などの給与の性質を持つ経費は出すことができません。 |
累進課税 | 出資金が1億円以下であれば、法人税の税率は、所得800万円以下の部分は15%、超える部分は23.2%の2段階税率が適用となります。所得が大きい場合、税率面で有利かと思います。 | 開業税理士は個人事業主であり、事業所得・総合課税として、所得税の累進課税の適用となるので、所得が大きい場合は不利と言えるでしょう。 |
繰越欠損金 | 法人税ですので、中小法人等の赤字の場合、繰越欠損金として、10年間100%、所得から控除できます。繰り越し年数の面で有利となります。 | 所得税ですので、事業所得の赤字の場合、純損失の繰り越し控除として、3年間しか繰り越しできませんので、繰り越し年数の面で不利となります。 |
巨大組織化、エリア拡大、事業承継、退職金、累進課税、繰越欠損金の点などで、メリットがあるということですね?
そうですね。組織の拡大、永続性がメリットと言えるかと思います。
本店・支店に社員税理士を各所に1名以上常駐しなければならないなど、税理士法独特の留意点もありますが、一般の事業会社と同じようなメリットを享受できるということですね。
税理士法人を設立する「デメリット」
それでは、税理士法人を設立するデメリットについて教えてください。
以下、表にまとめてみました。
税理士法人を設立するデメリット | 開業税理士事務所を設立するメリット | |
登記 | 法人登記が必要になります。 社員税理士が住所を変えるだけでも、再度登記し直すことになり、コストや手間などかかります。 | 個人事業主ですので、原則として登記は不要です。 屋号を登記することもできますが、あまり登記されている事例は聞きません。 |
定款 | 法人ですので、定款を作成する必要があります。 定款を作る際には、競業禁止などの事項について、特に留意する必要があります。詳しく後述します。 | 個人事業主ですので、定款は不要です。 事業の目的や範囲なども、明文化する必要はなく、今この瞬間に自由に変更できます。個人事業主の好きなように事業展開できます。 |
経営理念の相違 | 社員税理士が複数集まって合名会社とするのが税理士法人ですが、 税理士試験を乗り切り、キャリアを積んだ猛者も多いので、 個人の主張や信念など経営理念の相違により衝突した場合、社員税理士による組織が空中分解することもあるのかもしれません。 近年、税理士法人が解散となり、個人成り・開業税理士に戻すケースも実際にありましたので、設立の際は、経営理念の一致などを入念に全員で確認し合う必要がありそうですね。 | 個人事業主ですので、所長先生の経営理念を貫くことが可能です。 だからと言って、ハラスメントやモラルハザードにひっかかるような事務所運営をしますと、税理士ではない一般職員が次々に辞めてしまうような組織の空中分解も実際にありましたので、留意が必要ですね。 |
住民税の均等割 | 法人住民税の適用なので、たとえ赤字だとしても、均等割(最低7万円)の負担があります。また、支店が別の都道府県・市町村に存在する場合、別途均等割の負担がある点も留意ですね。 | 個人住民税ですので、赤字の場合、均等割免除となるような場合もありうるかと思います。 黒字だとしても、現在は均等割5千円とお安くなっております。 |
コスト負担感 | 登記だけでなく、社会保険の強制加入など社会的負担が大きいと言えます。定期同額給与、寄付金、交際費など損金算入限度額などの法人税独特の規定もあり、個人事業主よりも不利な税制もあったりしますね。 | 登記は不要ですし、社会保険未加入で済むケースも存在します。交際費の上限額はありませんし、寄付金はふるさと納税などもあり、制度が充実しています。 |
所得・キャッシュフロー | 法人の資金であり、税理士個人の資金ではありませんので、自由に出し入れすることはできません。役員貸付けは受取利息を計上することになりますし、社宅経費などにも厳しい規定があります。法人の所得ですから、総取りというわけにもいきません。会社法上の背任にも留意しましょう。 | 個人事業主ですから、稼ぎはすべて個人の所得となりますし、資金の引き出しや家計への使用も自由にコントロールできます。 但し、家事費(生活費)の経費算入は所得税法上できませんので、税理士ならば当然遵守すべきことですが、経費否認・自己脱税に留意です。 |
活動範囲の制限 | 税理士業務は、所属する税理士法人のみでの活動となります。他の事務所でのお手伝いなどは税理士法違反となってしまいます。 また、税理士法人の社内規定によって、兼業禁止とされ、会社役員や議員などに就けないこともあるのかもしれません。 | 自身の事務所での税理士業務はもちろんとして、別の事務所でのお手伝いのような働き方も可能です。 会社役員、議員や理事など、自由に就いているケースも多々見受けられます。自分の一存で就業できますので、活動範囲では、圧倒的に開業税理士が有利です。 |
こう見ますと、税理士法人にも結構デメリットがある様子ですね。
かえって、開業税理士は自由度が高い点で、税理士法人よりも有利に見えますね。
そうですよね。
全国の税理士の約8割が、開業税理士事務所の所属なのも、頷けますよね。
Aさんも、私も、「ひとり税理士」として割と自由度の高いフリーランスですものね。
税理士法人イコール絶対的に有利、、、とは言えないと思います。
税理士法人にも、開業税理士事務所にも、どちらにもメリット・デメリットがあるということですね。
このように、優劣や見栄どうこうではなく、メリット・デメリットを秤に掛けて、皆様の状況に最も適合した方式を慎重に検討してから適用することが大切になるかと思います。
ところで、上記には色々と留意点もあったかと思いますが、詳しく解説して頂けますか?
はい。
次に、税理士法人化の留意点についてポイントを絞って深掘りします。
税理士法人化する上での留意点「競業禁止」について
「定款」の説明の際に、「競業禁止」とありましたが、これはいったいなんでしょうか?
どのような留意点がありますか?
税理士法48条の14に「社員の競業の禁止」というものがあります。
(社員の競業の禁止)
第四十八条の十四 税理士法人の社員は、自己若しくは第三者のためにその税理士法人の業務の範囲に属する業務を行い、又は他の税理士法人の社員となつてはならない。
2 税理士法人の社員が前項の規定に違反して自己又は第三者のためにその税理士法人の業務の範囲に属する業務を行つたときは、当該業務によつて当該社員又は第三者が得た利益の額は、税理士法人に生じた損害の額と推定する。
引用 : 税理士法
税理士法の条文のうち、特に解釈が難しい部分かと思います。
この解釈として、以下の文献(日本税理士会連合会 税理士法逐条解説7訂版)には、次のような解説があります。
(略)
その税理士法人が行うはずの業務を、個人的に請けて行ったり、別の税理士法人の社員となって、その業務を行うという競業は禁止されている。
(略)
定款の絶対的記載事項である「目的」として記載(略)したときは、競業禁止の対象となる。
したがって、会計業務を法人の業務として行う税理士法人の社員は、自己又は第三者のために会計業務を行うことが禁止されるので、その社員が、会計業務を行う他の法人の無限責任社員又は取締役に就任して、その会計法人のために会計業務を行うことはできないということに留意する必要がある。
引用 : 日本税理士会連合会 税理士法逐条解説7訂版 p219より
上段は理解しやすいかとは思います。
要は、税理士法人の知らないところで、勝手に税理士業を別に行ってはいけないというものですね。ここは納得しやすいかと思います。
では、下段はいかがでしょうか?
なんの事を言っているのかすら、解釈に苦しむところかと思います。
一例として、税理士法人とは別に、一般の事業会社をグループ内の企業として設立しているようなケースが該当するかと思います。
仮に、税理士法人ABCと、株式会社ABCがひとつの事業グループとして連携しているとします。株式会社ABCは、会計業務・コンサルティング業務・保険業務・不動産管理業務・グループ内の契約・営業・総務などを総合的に行う会社だとします。このような場合、税理士法人ABCの定款の「目的」の欄に、会計業務・コンサルティング業務・保険業務・不動産管理業務と書いてしまうと、税理士法人ABCの社員税理士は、株式会社ABCの役員として会計業務・コンサルティング業務・保険業務・不動産管理業務を行うことはできないという解釈になるかと思います。では、役員としてでなければ良いのか?というと、グレーゾーンかと思いますので、なにか別の方法を考える必要がありそうです。
税理士法人ABC |
株式会社ABC |
下段の解釈、すごく難しいですね~。
では、税理士法人ABCと株式会社ABCは、どのようにすると良いのでしょうか?
税理士法人ABCの定款の「目的」は、税理士業務に限定して記載すると良いのかもしれません。
これによって、会計業務・コンサルティング業務・保険業務・不動産管理業務は、株式会社ABCとして業務を遂行することについて、競業禁止規定を回避できるものと思われますね。
税理士法人ABCとしては、会計業務・コンサルティング業務・保険業務・不動産管理業務を行わないこととすることになりますね。
税理士法人ABC | 税理士業務に専念 (定款の目的欄に、税理士業務とだけ記載し、会計業務・コンサルティング業務・保険業務・不動産管理業務とは一切記載しない) |
株式会社ABC | 会計業務・コンサルティング業務・保険業務・不動産管理業務に専念 (税理士法上、もともと税理士業務を行うことはできない) |
なるほど!
二社の業務範囲を、定款の目的や実際の運用面で、明確に完全に棲み分けをすると良いという解釈になりますよね。
ところで、株式会社ABCが顧客と全面的に契約するとしている様子ですが、この点、なにか問題はないのですか?
全面的という点については、税理士業務面において問題がありますね。
契約時・請求時・回収時も含めて、税理士業務とそれ以外の業務の棲み分けが大切になりそうです。
株式会社ABCが、税理士業務部分も含めて、契約も行ってしまいますと、税理士法52条「にせ税理士行為」として問題になります。
実際に、不動産系事業会社が、開業税理士を税務申告をするだけの下請けとして抱えておき、不動産系事業会社が顧客と直接税務上の契約・請求・回収もしたとして、千葉県税理士会の綱紀監察で指摘・処罰された事例が近年ありました。不動産系事業会社と開業税理士数名には厳重注意勧告・誓約書提出とのお沙汰が下ったそうです。
(業務の執行方法)
第四十八条の十五 税理士法人は、税理士でない者に税理士業務を行わせてはならない。
引用 : 税理士法
(税理士業務の制限)
第五十二条 税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。
引用 : 税理士法
税理士業務ができるのは、税理士か税理士法人だけです。税務相談・税務代理・税務申告などの税理士業務に限って言えば、顧客との契約や請求、回収も含めて、税理士法人ABCが顧客と直接行う必要がありますね。
税理士法人だけでなく、開業税理士事務所でも同様の問題が生じうるので、特に留意したい点ですね。
税理士法人ABC | 税理士業務は、契約から請求・回収に至るまで、税理士法人ABCが行うべし。 |
株式会社ABC | 税理士業務に関しては、契約から請求・回収に至るまで、株式会社ABCはノータッチとすべし。 |
悪意の有無はともかくとして、素でも、やってしまいがちな問題ですね。
とにかく、棲み分けが大事ということですね。
税理士法人化の手続きの流れについて
最後に、税理士法人化の手続きの流れなどについてお願いできますか?
1.税理士(未登録者は不可)2名以上で、経営理念などを確認する
*トラブル回避のために、基本合意書などを作成すると良いかもしれませんね。
2.所属する税理士会に申請して、社員資格証明を受ける
3.定款を作成し、認証を受ける
*「目的」の記載内容にくれぐれも留意
グループ内に別会社をつくるならば、競業禁止に留意
4.出資金を税理士法人のメインバンクに払い込む
5.二週間以内に法人登記する
6.税理士会に税理士法人の設立を届出をする
ざっくりですが、上記のような流れかと思います。
ありがとうございました!
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